誰かについて記事を書く場合、
一般的には
「博士」とか「社長」とか肩書きがあると、それを使い、
あとは大体「氏」をつけます。
ただ、俳優やタレント、歌手などは
記事の中でも呼び捨てのことが多いです。
ファンは
「みぽりん」とか「やまぴー」とか「タッキー」とか、
愛称をつけ、「呼び捨て」を避けようとします。
もちろん「ヤザワ」「キヨシロー」「タクロー」など
敢えて呼び捨てにすることで信奉の強さを示すこともありますけどね。
歌舞伎俳優の場合も、
圧倒的に呼び捨てのときが多いですが、
親しみをこめて「さん」づけしたり、
若い人にだと「クン」づけだったり、
ファンは
自分の気持ちを呼び方で表します。
関西の中村鴈治郎さんのことは「がんじろはん」、
今の四代目市川猿之助は
市川亀治郎時代、「亀ちゃん」と呼ばれていました。
市川染五郎さんもすでに40代ですが、
昔からのファンは「染ちゃん」です。
最近では「松也クン」が定着しつつありますね。
でも、
もう少し敬意を払って話題にしたいとき、
あらたまった文章中で「さん」はおかしいが、
だからといって呼び捨てはしたくないとき、
「丈」をよく使います。
「丈」は、歌舞伎俳優に限った敬称ではありませんが、
特に歌舞伎では、
男性かつ女方とか、一般の敬称を使うことを戸惑う場合もあり、
そこがしっくりいくのかもしれません。
相撲の行司(木村庄之助、式守伊之助など)にも
敬称には「丈」をつけるとのことです。
代々引き継がれてきた名前というところが共通点でしょうか。
歌舞伎で襲名するということは、
名前を受け継ぐだけでなく、
その芸風も受け継ぐという意味合いがあります。
名に恥じぬよう、
その名にふさわしく、というふうに、
皆さんとても襲名を大切にしています。
でもファンとしては、
自分が慣れ親しんだ名前に別れを告げることに
一抹の寂しさがあることも事実。
もちろん、
大名跡を襲名することの晴れがましさを
うれしく誇らしく思ってはいるんですけどね。
今の松本幸四郎さんを
いまだに「染五郎さん」と呼んでしまう、という方もおられます。
「勘九郎さん」というと、
亡くなった勘三郎さんのことを思い出す方もいらっしゃいます。
「四代目市川猿之助」を襲名した今でも、
思わず「亀ちゃん」と呼んでしまうファンは多いです。
それは、悪いことではない、と私は思っています。
誰かのファンになったからこそ歌舞伎が好きになった。
自分の情熱の記憶が、そのときの「名前」に結晶している。
セイシュンの勲章です。
この感覚は、
ファンだけではないはず。
猿之助さんも、襲名直前まで
「ずっと亀治郎でいたい」と言っていたくらいですから。
それでも、
襲名は役者としてもう一回り大きくなるチャンスです。
一人の人間の中二つの名前が融合していくさまを見る。
人間の名前と身体を通して歴史の厚みを実感できるのは
歌舞伎を観る上での醍醐味の一つです。
それから…。
一般の人名の場合、最初にフルネームを紹介した後は、
「中村さんは、」「市川さんは」と、姓で呼ぶことが多いですが、
歌舞伎でそれをやってしまうと
中村さんとか市川さんとか坂東さんだらけになってしまって、
ちょっと間が抜けてしまいますね。
だから
「勘九郎さん」「海老蔵さん」「玉三郎さん」というふうに、
名前のほうで呼びます。
でも「さん」ではくだけすぎるな~、という場合、
といって呼び捨てではきつくなるな~、という場合、
そのときこそ、「丈」の出番です!
ちょこっと覚えておくと、便利ですよ。
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