歌舞伎に限らず、伝統芸能でよく見かける、黒装束で顔を隠したスタッフさん。
TVのバラエティショーなどでも、時々このスタイルを敢えて採用することがありますね。
萩本欽一さんの冠番組「欽ちゃんのどこまでやるの?」(通称”欽どこ”)では、1980年代に小堺一機と関根勤が黒装束と灰色の装束でコントする「クロ子とグレ子」シリーズが人気となり、一世を風靡しました。
この影響もあってか、黒装束の人を「くろこ」って言う人が多いんですけど、「くろご」っていう人もいますよね。あと「黒子」って書く人と、「黒衣」って書く人がいる。そこで
本日のギモン:黒装束で役者をヘルプする人は「くろご」?「くろこ」?
はじめに正解を言ってしまうと、「くろご」が正しいです。字は「黒衣」と書きます。
黒い衣裳を着ているから黒衣。まあ、当たり前と言えば当たり前ですが、「衣」を「ご」とは普通読まないので、「黒子」と書きたくなるのはわかります。パソコン一発変換で出てこないことの方が多いですしね。
ただ、「黒子」の読みは「ほくろ」ですから、そこで区別するといいと思います。
本日のお答え:「黒衣(くろご)」が正しい。「黒子」は「ホクロ」
単に「黒衣は舞台の上にいるけれど、役者ではない」という区別だけでなく、「黒」には「見えない色」という意味があるんです。
たとえば、登場人物が死んでばったり倒れると、黒衣さんが出てきてパッと黒い大きな布を広げ、広げた布の向こうでは、死んだはずの人が起き上がり、黒衣さんとともに少しずつ移動して、観客に見えないように舞台袖にはけていきます。
黒い布を見て「なんだなんだ? どうして急に黒い布が? SFか? ブラックホールか」とか考えたら、物語が中断しちゃいますよね。
これは「死んだはずの人が起き上がる」ところを観客に見せてしまわないために「黒いところは見えない」というルールに基づいて舞台進行をしているということになります。
また、「ヘルプ」としての黒衣さんの他、「後ろから操る人」的なニュアンスで「黒衣」という言葉を使うこともありますよね。たとえば、政治家がいて、実は秘書さんの方がその政治家を動かしているような場合。
前面には出ないだけで、実は秘書さんの思う通りになっている…これは、歌舞伎の黒衣ではなく、人形浄瑠璃(文楽)の人形遣いの衣裳としての黒衣から来ているのでしょう。心のない人形に、魂を吹き込むのが人形遣い。一心同体、まさに「操り」ですね。
あと、同じヘルプでも、「黒」だけでないことがあります。たとえば、雪が降りしきる場面。黒衣さんは白い衣裳を着ます。いくら「黒は見えない色」といったって、一面白の中に黒が入ったらいやでも目立ちますものね。その時は「黒衣(くろご)」と称さず、雪の場面では「雪衣(ゆきご)」、海や川などの場面では青色の「水衣(みずご)」「浪衣(なみご)」。素敵な名前ですね!
本日のまとめ:
1.舞台で役者の補助をする人は「黒衣(くろご)」
2.「黒」は「見えない」というお約束がある
3.「操る人」の意味での「黒衣」は、人形浄瑠璃(文楽)の人形遣いから
4.雪の場面では白、川の場面では青の衣裳を着て、名前も変わる。