昨日「東西」のお席の話をしましたが、ここで気をつけなければならないのが「見切れ」です。
「見切れ」っていう言葉、聞いたことがありますか?
本日のギモン:「見切れ」って何ですか?
劇場でチケットを買う時、それも「安いチケット」を買う時、気をつけなければならないのが「見切れ」です。
舞台は客席に対して「真正面」から見るようにできています。
ですが、客席は「側面」にもある。いわゆる「東西」のお席ですね。
当たり前ですが、
東西のお席に普通に腰掛けて真正面を見たら、見えるのは「舞台」ではなく、「客席」です。
もちろん、視界にはちゃんと舞台も入りますが、全部は入りません。
東(向かって右)の席に座ると、舞台の右の部分、西(向かって左)の席に座ると、舞台の左の部分に、「見えない」場所が必ずできます。
とりわけ歌舞伎は花道がありますので、「西」の席を取るときは十分注意が必要。
同じ東西の席でも、2階、3階の西の席は、花道が全く見えないという場合があります。「花道をしっかり見たい人は、2階3階の西の席は取るな!」というのは、そういうことなのです。
1階の西の桟敷席は、花道を真正面で味わえる最高の席ですが、それでも正面舞台の左の方に「見切れ」は起こります。
また、真正面の席だとしても、2階、3階だと、花道の奥の方は見えません。
歌舞伎では花道でも演技をすることがあるので、席によっては「声だけ聞こえて何をやっているかわからない」という場合が出てきます。
3階4階になると、「上が見切れる」という場合も出てきます。
「まあ、丸いお月様」などと言われても、月が出ているのがわからない。セリフがあればまだいい方で、
何も言わずに月が出て、それを見る主人公の背中を見ながら、幕が閉まるという演出なのが「名月八幡祭」というお芝居で、「名月」は最後にしか出ないので、3階4階からは、なぜタイトルに「名月」がついているのか理解できないかもしれません。
本日のお答え:舞台の左右や上方が十分に見られないこと
それは、舞台の構造上、場所によっては必ず出てくる仕方のないことではあります。
安いチケットを買う場合は、多少「見切れ」のリスクがあることは、覚悟しておきましょう。だからこそ、1階席は高くでもそれだけの価値がある、とも言えます。
初めて歌舞伎をご覧になるときは、もし可能であれば1階の、それも「とちり」とは言わずとも前の方のお席を、と思うのは、そういうこともあるのです。
「花道」など、歌舞伎に特有な舞台構造のために、席によって「見切れ」が生じるのは致し方ないこと。
武道館や野球場のように、スポーツをする場所でミュージシャンのコンサートをやったりするなど、目的が変われば想定外の「見切れ」席も出るでしょう。
「見切れはあるけど、格安だから、何度も来てね」というような設定ならば、許せます。それは、昔からあって、「天井桟敷の人々」という映画は、オペラやバレエを愛しながら、劇場の一番安いチケットしか買えない人たちを描いたものです。
それに引き換え、とにかく席を作ればいいじゃないか、席数が多ければそれだけ儲かる、みたいな考えで、舞台を観たことがない人、舞台を愛していない人が設計したのではないか?と思ってしまう劇場に行くと、悲しくなります。最近できた劇場なのに、「こんなに高いチケット代をとって、それでどう考えてもこの席からでは舞台がしっかり見えないってどういうこと?」という場合は、憤りさえ感じます。
本日のまとめ:
1. 「見切れ」とは、舞台の左右や上方が十分に見られないこと。
2. 東西(左右)の席では、舞台の左右が見切れる。
3. 2階3階の席では、花道の奥(客席の後ろ)が見切れる。
4. 花道に近い西の席でも、2階3階は花道が全く見えないことがある。
5. 劇場の構造上、あるいは本来の目的以外の使用によって見切れ席が出るのはある程度仕方がない。
(注)すべての東西の席、すべての2階3階の席が見切れる、というわけではありません。
見切れた時に、前かがみになったり、頭を手すりから出したりして見るのは観劇マナー違反です。
(自分の頭で後ろの人の見切れがさらにひどくなるということを想像しましょう)